『この世に愛なんてない、夢なんて叶わない。そんなことはわかっちゃいるけど、だったら何を信じたらいいんだ?』そんな風に、嘆かないでね。私は「愛」も「夢」も「希望」も、歌ってあげるから。
アモーレ山田は今宵も歌う。
新橋にある、シャンソン酒場”難破船”で。
ギタリストのたむちゃんは、寡黙にギターをポロンと鳴らし、アモーレ山田は涙をそっと拭いながら、歌い続ける。
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スナック。
そこは男達が、家に持ち帰れない”いろんな想い”を預けにくる場所。
苦労を笑い話に変えて、自らをリセットするように酒を飲み、語り、歌う。
真面目な顔をして仕事の話しをしていたかと思えば、武勇伝を大きな声で語り豪快に笑う夜もある。
私はおしゃれなバーや高級店でかたむけるお酒も好きだが、スナックという場所にも愛着がある。
人生を噛み締めたい時、むちゃくちゃに心を暴れさせたい時、それを受け止めてくれるのはきっと”スナック”だ。
(昔はきれいだったんだろうなぁ、いや、今でもまだまだ艶っぽいぞ)という様子の世話好きなママさんは、必ず美味い手作りのお通し(煮物や漬け物)を出してくれる。
それをつつきながらため息をつけば「どうしたの、ため息なんかついて」と、すかさず声をかけてくれるだろう。
(おせっかいだなぁ・・・)というような顔をわざとしながら、少し間を置いてぽつぽつと語れば、ちょうどいい距離感で、絶妙な言葉をかけてくれる。
「なによぉ、そんな顔して。大丈夫、明日になれば忘れちゃうから」と励ましてくれるかもしれないし「いつまで気にしてるの!いい加減にしなさいよ。あなたはあなたじゃない。胸はって生きてればいいのよ」とダミ声で叱ってくれるかもしれない。
おせっかいなママさんがいる、路地裏のスナックに行こうと思う夜。
かまってもらいたいのだ。
甘えたいのだ。
きっと。
お母さんでも、恋人でも、友達でもないのに、大きな愛で優しく包み込んでくれる。それはスナックのママさんに違いない。
私はいつか、スナックをやってみたい。
傷ついた男達を優しく癒してみたい。
この夢が叶うまでは、アモーレ山田に願いを託します。
<アモーレ山田の歌声はこちらでお楽しみください>